【読書感想文】さよならタマちゃん (武田一義)

さよならタマちゃん (イブニングKC)

さよならタマちゃん (イブニングKC)

35歳漫画家アシスタントに突然襲いかかった病“精巣腫瘍”、いわゆる睾丸の癌。漫画家になる夢の前に立ちふさがった壁はあまりに大きすぎる。病を機に激変した生活を赤裸々に描く、リアル闘病記!

さよならタマちゃん / 武田一義 - イブニング公式サイト - モアイ


本書の存在は以前から気にはなっており長期入院生活のお供にとも考えていたが、病棟で患者や看護師に触れられるのが嫌だった、それと寛解した人間の闘病記を闘病中に読むのは逆に心が折れるのではないかと思い一旦保留していたのだが、大正解。

表紙に描かれている点滴台と輸液ポンプに繋がれた主人公(=作者)の痛々しさ、抗がん剤治療の副作用が始まったあたりから、zugaikotsu自身の闘病の日々を思い出し作者に自身を投影してしまい正直な所読み進めるのが辛くて仕方なか

闘病モノの創作物は殆どが視聴者あるいは読者を感動させようという意図が見え透いており、それは勿論構わないが感動させたがる割には、がん患者役の役者が役作りの為に頭を丸めたり体重を落としたりなどする事もなくヒロインと愛だの恋だの語り合ったり、見舞いに来て身の回りのする家族の介護の辛さを描かなかったり等、視聴者を感動させる為には必須であろうリアリティを省いて上っ面だけ見繕ってるようにしか思えなくてどうにも好きになれなかった。

勿論、本書にも読者の感動を誘ってる演出が多々見受けられるが抗がん剤の副作用の辛さや、何も出来ない家族や友人達の歯がゆさなど感動に到達させる為の積み木をきちんと描いており、不思議と押し付けがましくない。

抗がん剤による副作用の嗅覚の過敏化で自身の汗が薬臭く感じたり、治療をしている筈なのに日に日に体調が悪くなる事への焦燥感、ジャンクフードを好んで頼むなど等枚挙にいとまがないが、とにかく闘病の辛さのリアリティーに関しては他の追随を許さない。

娯楽漫画的な面白さがあるかどうかと聞かれたら正直微妙ではあるが、上記で述べた通り闘病の辛さや不安感、周囲の対応などリアリティーに関してはこれ以上ないという程なので、大病を経験した人、現在闘病中の人は勿論、テレビドラマでしか癌に触れた事のない若い世代にこそ読んでもらいたい一冊だ。